崔健「光凍」アルバム評 その2
崔健の曲作りは最初にリズムとリフレインもしくはサビメロがあり、次に曲、それから歌詞、最後に主題を決めるという手順になっているそう。どの曲もその崔健スタンダードに乗っ取って作られていそうだと感じます。
リフレインが覚えやすいのは初期の作品にも多かったのですが、前作の「藍色骨頭」「農村包囲城市」等のラップに比べると、ライブでも観客が声を合わせやすく親しみやすさがあります。崔健の力強いボーカルにかぶさる厚みのあるコーラス、速くないテンポ、軽めのアレンジ、ブラスや劉元の吹く中国楽器、また口笛や手拍子の柔らかい感じ等々、さらにライブでも歌い馴れた曲が有って「こなれた感」とか余裕、あるいは円熟味とでもいいましょうか、そんなこんなが伝わり、アルバム全体からこれまでにない温かみが感じられます。
アルバムタイトル曲「光凍」は、光も凍えるほどの凍てつく寒さが、やわらかく溶けて行く、永遠に変わらないと思っていた激しく厳しい現実が少しずつでも変わって行く、という祈り、希望のゴスペル。神々しささえ感じられます。こんなにも力づけられる曲であるということから、未確認ですが、2008年四川大地震のチャリティーライブで発表された「光的背面」という曲が有るのですが、もしかするとこの「光凍」はその曲の発展形なのかもしれません。
歌詞からはスケールの大きな風景(「俺と太陽と月が一直線に並んで凍りついている」「海面はゆらゆらとゆらめく大きなベッド」「Outside girl 俺をこの地球から連れ去ってくれ」etc.)が伝わる曲が目立ちますが、崔健が「中国之星」で繰り返し主張していた「心理主義」がベースに有ることから察するに、表現の可能性を遮るものは何も無いということですね。
雨上がりの大地を歩くのは困難
泥土は皮膚よりも柔らかいのだから
行く先にまだリスクが有るのかどうか分からないが
ヘイ 俺はゆっくりと歩み続ける
転がり行くタマゴのように
Ye-
「滾動的蛋」
この「イェー」がすべてを肯定してくれ、自分を信じて進めばいい、というとても大きな安心感をもたらしてくれます。東日本大震災から5年、私たちを取り巻く現実も相変わらず、どちらを向いても硬い石のようですが、崔健のように自分軸を守り続けて「転がり続けるタマゴ」でありたいものです。
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